Photographer Chihaya Kaminokawa 神ノ川智早

神ノ川智早

神ノ川智早

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写ルンです

2013Thu02.28

小さい頃、学校や先生がすこし苦手だった私が2日間だけカメラの先生をやることになった。自由学園という学校で、「JIYUアフタースクール」という学童保育の主宰をしている、友人でもあるワタナベ先生からぜひこどもに写真を教えてあげて欲しいとお願いされたのだった。先生なんてうまく勤まるだろうかと不安になりながらも引き受けた。
1年生から5年生までのこどもが相手だから、難しすぎると伝わらない。一人一台カメラを持って写真が撮れて、分かりやすくて楽しくて、作品の発表も出来る授業。うーん。と唸っているときに思い出したのが、FUJIFILMの「写るんです」だった。
今のこどもは、殆どフィルムでは写真を撮らなくなっている。携帯カメラやコンパクトデジカメでぱちり。写真を撮り終わると同時に、「見せてー」とカメラに集ってくる。そんなお手軽デジカメ世代のこどもたちにとって「写るんです」は新鮮だし、一枚一枚を大切に撮る写真の世界を見せてあげられる。ありがたいことに、FUJIFILMさんから、27枚撮りの「写るんです」を人数分提供してもらえることになった。
こどもたちには、学校の中にある、自分が思ったかっこいいもの、おもしろいもの、きれいなものを撮って来るように伝えた。大事なのは、どこがおもしろいのか、どこが楽しいのか、きれいなのかをよく観察する事。上から撮るのか、下から撮るのか、横からなのか。27枚しか撮れないカメラだから、ただぱしゃりと撮ってしまわないように、一枚一枚、よく考えて撮ってみてね。そう言って、一人一台カメラを渡すと、みんなそれはもう嬉しそうに外へ飛び出して行った。
「せんせー僕あと10枚!」「わたしあと20枚あるー!」「俺あと5枚!」校庭を移動しながら写真を撮ってまわっている間、ずうっとこどもたちから、残りの枚数の報告があった。ぱしゃ、がりがりがり、ぱしゃ、がりがりがり、と軽いシャッター音とフィルムを巻き上げる音があちこちでして、みんなにっこにこの顔で雨に濡れながら夢中で撮っている。池の水を静かに覗き込む子。木の幹に向かってじーっとカメラを向けている子。かと思えば、下校中の上級生や先生を片っ端から撮り続ける子。だんだんと、じっくり物を観察する事を忘れて、ただシャッターを切る事が楽しくなって来ているみたいだった。でも、それも良いなと思った。私は少しずつ暗くなってくる空を見て、「そろそろフラッシュ付けてね!」と叫びながら子供たちの間を歩き回った。せっかくの写真が撮れていなかったら大変だ、と心配しながら。
写真を撮り終えて教室に戻り、今日の感想を聞くと、「えーと、つまらなく、ありませんでした!」と一人の男の子がにやっと笑いながら答えてくれた。男子め。と思ったけれど、悪くない答えだった。15個の撮影済みカメラをあずかって現像所へ持って行くのがとにかく緊張した。いま、私にとってこれより大切なものは他にはない。と思えるくらいお宝だった。次の授業では、それぞれが撮った写真を使って、一人一冊のアルバムを作る。どうか、子供たち一人一人の撮りたかった写真が、ちゃんとぜんぶ写っていますように。そう祈りながら次の授業を楽しみに待っている。