Photographer Chihaya Kaminokawa 神ノ川智早

神ノ川智早

神ノ川智早

NEWS

鹿児島

2012Sun05.06

3月末、熊本へ写真を撮りに行った帰りに鹿児島のおじいちゃんおばあちゃんを訪ねた。ピンポン、をして玄関を開けると、おじいちゃんが敬礼して迎えてくれた。
何をしてたの?と聞くと、庭の椿を見ていたと言うので一緒に庭に出た。いい天気で、沢山花が咲いている。おじいちゃんの趣味は車に乗って全国へ旅に出る事、庭で植物を育てる事だったけれど、心臓が弱った今では、植物を育てる事だけが残っている。いくつかの種類の椿の名前を教えてくれて、岐阜で買ったという薄墨桜をながめ、庭のすみに生えているシャクナゲを見せてくれた。
綺麗だねと言うと、これは20年前に植物園にたーくさん生えていた小さな苗をひょい、とポケットに入れて持って帰ってきた木だよ、と言う。
おじいちゃん、それってどろぼうでしょ。と笑うと、ふっふふ、20年後に智早を喜ばせたからいいだろうとおじいちゃんも笑った。
庭を見てから、寝たきりのおばあちゃんの部屋へ行った。おばあちゃんは話せないけど目はきらりとして、私が来た事をわかってくれたようだった。返事はないけれど、淡々と話しかけた。なんとなく、目でそうか、わかった、と言ってくれたような気がした。
お昼に、お隣の叔母さんのおうちでおじいちゃんの好物のうなぎをごちそうになり、お茶を飲んでいると、ふとおじいちゃんが自分の生い立ちについて話し始めた。
急にどうしたのかしらと聞いていると、今までまったく知らなかった衝撃的なはなしだった。93年間、そのことを忘れた事はなかっただろうし、それがおじいちゃんの人生を左右していて、その中でこつこつと生きてきていたんだと想像すると、「おじいちゃん」、を一人の男の人として初めて見ることができた。
帰るとき、おじいちゃんに、ちはや、ちょっとおいでと呼ばれた。黒い皮の財布から出したお金を机の上に広げ、これが財布に入っていた全財産だからやる。持って行きなさいという。机の上を見ると、千円札一枚の上に、100円玉がばらばら、と置いてあった。数えると1500円だった。
全財産もらったら大変だからいいよ、ありがとうと言うと、郵便局にはいーっぱいお金がある。100万円あるから大丈夫だ。と言う。
じゃあ、今から一緒に郵便局行ってお金もっと下ろそうか、行こう行こう、とからかうと、ふっふっふ、、、と笑って流された。お小遣いはありがたくいただき、また会いに来ますと伝えながら、いつも頭をよぎる、もしかしたら、これが最後になるかもしれないという思いも拭いきれずに、おじいちゃん、おばあちゃんの顔をしっかり見てバイバイと言って家を離れた。
もらった1500円は使えずに、仕事場の棚に未だに飾ってある。