Photographer Chihaya Kaminokawa 神ノ川智早

神ノ川智早

神ノ川智早

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my niece

2014Sat07.26

弟の妻の妹、私にとって義理の妹が結婚式を挙げた。私はその様子を撮影するために帰郷し、家族、これから家族になる人達、そのまた親戚や子供達、大勢の人に会った。
式の後、弟夫婦は1歳と3歳の娘を、私も寝泊まりしている実家に預け2次会へと出かけていった。結婚式がおわってほっとした私と両親は、ゆっくりする間もなく1歳と3歳のこどもたちに付き合って遊んでいた。
そのうち父はテレビを見始め私と母は台所に立ち、こどもたちを抱っこしながら食事の準備をしていたら、3歳の姪が「ママは?ママに会いたい!」と言い始めた。
ちっとも悲壮感はなく、ニコニコ笑っていたので大丈夫だろうと放っておいたら、だんだんと泣きべそをかき始めた。疲れていたのだろう私の母は、「ママはもう少ししたら帰ってくるから待っていようね。」と何度言っても聞かない姪にとうとう、「ママはまだ帰りません!」とぷい、と背をむけてしまった。
1歳の姪を抱えながら野菜を炒めていた私は、ちょっと交代して、と1歳を母に預け、泣きべそかいてる3歳の姪をだっこした。
今日は結婚式があったね。花嫁さんも花婿さんも綺麗でかっこ良かったよね。と言うと、うん。と頷いている。ママとパパは、2人にもう一度おめでとうを言いにパーティーへ行ったんだよ。もうすぐ帰ってくるから。と言ってもまだ、
「ママに会いたい。」と目に涙をためている。まあ当然ねと思い、大丈夫、帰ってくるよ、と言いながら抱っこした姪をゆらゆらと揺らし、わざと力を抜き、床に落とす振りをしてからぎゅっと彼女を抱え上げた。するときゃっきゃと笑い始めたので、それを何度も繰り返した。

父がお風呂を湧かし、もう入らせたら?と声をかけて来たので、ご飯をあきらめた母と私は姪達をお風呂に入れる事にした。
服を脱がせて洗い場に立つと、姪は嬉しそうに湯船のお湯を触っている。
私は彼女の体をさっと洗い、腰掛けに座ってから抱っこして腿の上に座らせ、美容院のリクライニングみたいにして少し寝かせてさらさらの髪の毛にお湯をかけた。
白いシャンプーの液を少しだけ、ゆっくり姪の小さい頭につけて泡立てると、気持ち良さそうにじっとしている。お湯で泡をすすいでやると、ふわぁ、と小さな声を上げて、もう一回、もう一回とせがむ。言われる度に、お湯が彼女の目に入らないように気をつけながら、何度も何度も頭にお湯をかけてやった。
私の腿とお腹に、姪のつるつるした小さいお尻と背中がぴったりとくっついていた。ほっぺたが綺麗なピンク色をしている。肌はどこまでも透明で柔らかく、お湯をどんどん含んで弾けてしまいそうにぷるんと膨らんでいた。
私はある考えに捕われながらそれを眺め、柔らかな髪にお湯をかけつづけていたら、あたたかさも手伝ってか少しぼうっとなり、うっとりしはじめていた。しまいには私の腿の上に乗っているこの子が誰なのか、自分が誰なのかも頭から消えそうになるほどちょっとおかしな感覚になってきたので、はい、おしまいだよと姪の身体を起こして床に下ろした。するとにこにこ笑って姪が言った。
「ねえ、あなたはだあれ?」
3歳の女の子が聞く質問にしてはずいぶんと大人びているし、なんでそんな事を聞くんだろうと思いながら、姪に呼ばれている愛称で、「ねえねだよ」と答えた。すると、姪は湯船の縁につかまりなが今度はこう言った。
「だれなの?ママ?」
私はその言葉にドキリとした。でも、姪がただふざけているのかもと見ていると、また
「だれ?ママなの?」
と聞いてくる。私は、ママじゃないよ、ねえねだよともう1度言った。何回も聞いてくるものだから、最後には「うーん、ママかもねえ」と答えた。

お風呂から上がって姪の体を拭き、パジャマを着せて居間で遊んでいると、弟夫婦がただいまと元気よく帰って来た。
さっきまで、私にあんなに濃密にぴったりとくっついていた姪は、わっと玄関に飛んで行って、本物のママの腕に抱かれ、胸に顔をぎゅっとうずめ、もうこちらを見ていなかった。それを見て私は少しだけ寂しくなり、でもほっとして、おやすみなさいと自分たちの家に帰る弟家族を見送り、居間に戻って父と一緒にテレビを見た。

姪は、自分の母親と「あなたはだあれ?」ごっこをしていつも遊んでいたのかもしれない。母親が居ない事が寂しくてあんなことを言ったのかもしれなかった。
私は彼女の髪の毛を洗っているとき、もし自分に子供がいたら、その子の髪を毎日こうしてお風呂で洗うんだな。と思った。
最初は優しく洗っていても、そのうち慣れてじゃぶじゃぶ洗うようになって、さっとお風呂に浸からせて、はい、遊んでる場合じゃないよ、次は上がってごはん!なんていうふうに変わって行くのだろう。こんなに柔らかで綺麗なものも、当たり前のものになるんだろうと考えていた。
そして、だんだんと、まるで自分が姪の母親になったかのような、姪が私の子供になったかのような不思議な感覚になり、時間も場所も忘れるような恍惚状態になっていた。そこへ、あなたはだれ?ママなの?と聞かれ、姪に自分の考えを見透かされたようでドキリとしたのだった。
1ヶ月後にまた姪に会った。姪は最初はちょっと照れくさそうにして、しばらくすると遊ぼう遊ぼう、とはしゃいで側によってきた。私はいつも通り、全力で姪と遊んだ。