Photographer Chihaya Kaminokawa 神ノ川智早

神ノ川智早

神ノ川智早

NEWS

正月の風邪

2014Sat03.15

今年の1月1日にひどく熱が出て、お正月だというのにごちそうも食べなかった。食べたいのに食べられないのではなく、何にも食べたくなかった。
お茶だけ飲んで半身浴をたくさんして、はしゃぐ姪っ子たちを眺めて過ごした。夜は2階にある寝室に8時には上がって行き、寒い寒いと震えながら自分の体温で布団の中が暖かくなるのを、ぼおっとした頭で何を考えるでもなくじっと待っていた。
眠りに落ちるか落ちないか、ぎりぎりのところで、わあーんと、子供の泣く声が聞こえてはっと目が覚めた。隣の部屋からだった。よく聞いてみると、3歳になる姪の声だった。私の義妹である母親に何かをたしなめられているのに、何かやりたいことがあってだだをこねているようだった。
わーん、わーんと切なく泣き続ける声と、困ったような母親の声を聞いているうちに、だんだんと悲しくなって来て、信じられない事に私も泣いてしまっていた。自分が心細い小さな子供になったような気もしたし、母に怒られた時の悲しさや、嫌な事があって泣いたこともふつふつと湧いてきて、さすがにわーんわーんと声を上げては泣かなかったけれど、ぽろぽろと涙が止まらなかった。
しばらくして義妹が、「いいかげんにしなさい。そうしたらもう眠らなくてよろしい。」ときりりと言うと、姪はふにゃ、とした聞き取れない声で何か言った。
次に義妹が優しく、「ちゃんと寝ますか?」と聞くと、「ハイ」と答え、それから静かになった。私は、「ハイ」と答えた姪の声を聞いてまた泣いて、ひとしきりぽろぽろと涙を流してからやっと眠った。
思い出すと、あれはなんだったのだろうと不思議な気持ちになるけれど、風邪を引いて熱を出し、ぽかんと空っぽになって弱っていたからこそ姪に同調して、自分が非力な子供になったような気持ちがして泣いたのだろうなと思う。元気で強気な大人の気持ちで聞いていたらきっと、しょうがないなああの子は。とただ苦笑していただろう。
熱を出したおかげで、こどもの時は言葉に出来る事が少ない分を、泣くことで補っていたんだなあと、心の奥底からぼんやりとでも思い出せたのはおもしろいことだった。