クーヨン１０月号で、ワタナベマキさんとお子さん、つむぎくんの撮影をしました。食べると元気になれる、あなたの思い出の味は？という取材でした。ワタナベさんにとってのそれは、母親のつくってくれたおいなりさんでした。
私にとってのおいしい味の思い出は、母がよく作ってくれたロールキャベツですが、おいしくなかった味の思い出もあります。
ある日、母がお昼に私の大好きだったフレンチトーストをつくってくれたのですが、なにかがあって食事前に怒られ、その間にお皿の中のフレンチトーストはどんどん冷めていきました。怒られた後にべそをかきながら１人で食べた冷たいフレンチトーストは、いつもと違って全然おいしくなくて、さらに悲しい気持ちになりました。
それから何年か後に父とクレイマー、クレイマーという映画を見ました。妻に出て行かれてしまった男が、慣れない手つきで息子にフレンチトーストを作ってあげるシーンがあるのだけど、グチャグチャと卵をかきまぜ、手でパンをつかみ、卵に浸し、心配そうにしている息子に、大丈夫、うまくいくから！といいながらフライパンでフレンチトーストを焦がしてしまうのです。
失敗してべちゃべちゃになったフレンチトーストの生々しさを見て、お母さんが居なくなる悲しさと、お父さんの台所での情けない姿を想像し、さらに自分の食べた冷たいフレンチトーストを思い出してものすごく悲しくなったのでした。
食べる事と、そのときの想いは強くつながって記憶に残るもののようです。でも、フレンチトーストは今でも大好きなのです。
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